大熊ワタル気まぐれ日記:2007-01-01


2007年01月01日(月)当世音楽解体新書 0701

★当世音楽解体新書 (planB通信07年1月号より)
「当世『レイバーソング』考」
 「労働歌」というと、どんなイメージがあるだろう? 大方にとっては時代遅れの骨董品というところではないだろうか。
しかし、労働も、歌も、時代と共に姿かたちは変えつつも、僕らの生活の大きな要素であり続けている。ところが、世の中に流通する圧倒的多数の歌・音楽は、労働について歌ったり、考えたりするのではなく、いかに、余暇を楽しむか、つまり労働の再生産にひたすら励むよう仕向けるものばかり。簡単に言えば、労働の現場と歌の現場は、体よく分断されてきたのではないか。
 しかしまた、少数派であることをいとわなければ、他の可能性はいろいろと見えてくるだろう。これまでも、外国のワークソングの紹介や、国内「民謡」の仕事歌などが再発見されてきただろうし、実はマスメディアにのらないだけで、労働・仕事をめぐる意欲的で現在的な作品が、国内外で続々と現れている。(ヨーロッパ周辺や中南米で盛んなように見える=逆に言えば日本では見えにくい=のは各々の政治情勢もあるだろう)
 さて本題。05年、06年と、年末に開催されたレイバーフェスタ(レイバーネット<注>主催)で、われわれDeMusik inter.に与えられた課題「レイバーソングDJ」は、その辺、どうなってるのか、…つまり今どきの労働歌、ないし労働にまつわる音楽、がどんな感じか、あらためて概観していくという試みだった。
 レイバーフェスタとは、文字通り「労働者の文化祭」だが、いまどき、どんなに働かされていても、自分は「労働者」だと思ってる人は少数派かもしれない。「労働者」という漢語の響きはたしかに古臭いのかもしれない。(「労働」は明治時代の造語らしいが)それはともかく、労働への批評や、労働者としての意識がなくなって喜ぶのは政府・財界の方だ。ときあたかも、残業代なんか払ってたら、日本経済の足手まといということなのか、「ホワイトカラー・エグゼンプション」というよく分からない名前の法律で、労働者の一層の奴隷化が目論まれている。
 そんなわけで「レイバーネット」の「レイバーフェスタ」。「労働」を当世風にカタカナにしただけなのか、あるいは、従来の「労働」概念ではこぼれてしまうような「仕事」「作業」といった部分にまで目配りしようとするのか。少なくとも、漢字の熟語では感じにくかった今の風をつかめるかも?という魂胆だろう。
(「労組関係者ならみんな知ってる、というか覚えているような歌ではなく、今のフリーター、無職者も含めた層にとっての新しい歌はないのか」というのが初めの注文だった)
 やってみると、これがなかなか面白く、反響も予想以上だった。また、フェスタの限られた時間ではとても紹介しきれないし、07年は随時、特集を組んで、独立したイベントをやっていこう、という動きになりつつある。ここで、内容を詳細に紹介する余裕はないが、今回の曲目リストの抜粋をご紹介しておこう。

========================
●「ああわからない」 ソウルフラワー・モノノケ・サミット 『Deracine ChingDong』(XBCD-1012)より
 不滅の大道演歌師・添田唖蝉坊による約100年前の歌が、モノノケ・サミット9年ぶりの新作でよみがえる。当時の歌詞が今も古びないのは何故だろう?
●「アスファルトをほりかえせ」 おーまきちまき 『月をみてる』(SAMP-21017)より
 神戸の震災被災地や釜ヶ崎など、関西の現場の空気を良く知る歌い手。ここ数年、歌の輝きがぐいぐい増して要注目。
●「ある絵描きの歌」 寺尾紗穂 『愛し、日々』(IML-1003)より
 新人・寺尾紗穂が、炊き出しで参加した山谷の「夏祭り」での出会いにインスピレーションを受けて作った歌。従来の運動系文化(?)にはまらない、あらたな感性の出現に乾杯!
● 「ゲットーの歌です(こんなんどうDeath?)feat.ViVi」 Shingo☆西成 『Welcome To Ghetto』(LIBCD-004)より
 ディープ大阪・西成に生まれ育ったラッパー。「ゲットー」育ちならではの、しびれるクールネス。ここまでドスのきいた日本語(というかナニワ言葉)のラップがかつてあっただろうか?
●「Mr. Workaholic Man」 Mic Jack Production 『 Universal Truth』(IDMCD-007)より
 札幌を拠点に活動するラッパー集団。リリック(言葉)に鋭い批評意識が満ちている。
●「Never Tire Of The Road」 Andy Irvine 『Rain On The Roof』(AK-1)より
 アイリッシュ・フォーク・リバイバルの立役者、アンディー・アーバインは、アイルランドで最も敬意を集める音楽家の1人だが、今も吟遊詩人のスタンスを貫く。アンディーの原点が、北米プロテスト・フォークのウッディ・ガスリーへの敬意に発することを示す名曲。来日のステージでは、「Fascists bound to lose」のリフレインが「ファシストは滅ぶ」の大合唱となる。
●「Bush e bugiardo(ブッシュは嘘つき)」 Daniele Sepe und Rote jazz fraktion 『Una banda di pezzenti』(RTPE002)より
 サックス奏者のダニエル・セペは南イタリア・ナポリの音楽シーンの顔役。国内南北問題に苦しんできたナポリの、地域の伝統音楽と、ロック、ジャズなどの実験的ミックスを継続し評価を集めている。近作では、汎地中海的なスタンスで、移民問題とリンクしながら、移民の音楽家たちともコラボレートしている。
 ナポリで、30余年にわたり、労働者・農民と協働しながら音楽活動を展開してきた集団「e zezi」にも触れつつ、ヨーロッパ周縁における多文化・対抗文化のあり方について小特集を予定。
●「お富さん」 ソウルフラワー・モノノケ・サミット 『Deracine Ching Dong』より
作曲は、沖縄生まれ、奄美大島育ちの渡久地政信(とくち・まさのぶ)。1998年、新宿中央公園で開催されたホームレス支援の「第5回新宿夏まつり」で、事前アンケート中、ホームレス達から最もリクエストの多かった歌。以後、ソウルフラワー・モノノケ・サミットの重要なレパートリーとなった。
<選曲・構成> : 大熊ワタル、二木信、本山謙二 (DeMusik inter.)

<注>数年前、インターネットの普及を受けて、グローバリズムに抵抗する新しい横断的・参加型の労働運動の情報ネットワークとして、世界各国でレイバーネットが出現。それを受け、日本でも労働運動活動家、市民メディア関係者、労働運動研究者が集まり設立された、「労働運動の発展を願うすべての人に開かれたネ ットワークであり、個人の自律性・自主性によって運営される参加型の組織」(レイバーネットHPより)

<号外!>「オリコン、批判的ジャーナリストを高額訴訟」
 元AERA記者で「J-POPとは何か」の著者・烏賀陽(うがや)弘道氏が、オリコンのチャートのあり方に批判的なコメントを雑誌に述べた、などとしてオリコンが同氏に5000万円の損倍提訴。コメントが載った媒体ではなくコメンテーター個人を訴えるのは、悪質な言論つぶしに他ならない。仮に同氏のオリコン批判が当たっていないとしても、まず訂正と謝罪を求めるのが筋ではないだろうか。
 POPS業界は、家電、流通、メディアなどが利権を求めて絡み合った、不透明な部分が多いことは、大方の識者の意見が一致するところだ。
 烏賀陽氏本人のブログなどで事実関係が分かるほか、ジャーナリスト津田大介氏のブログ「音楽配信メモ」が、資料的に充実している(第三者の業界関係者から拾ったコメント集は必読)。ぜひご注目いただきたい。

[link:34] 2007年03月02日(金) 15:14